『直球勝負の会社』 - 出口治明著


ライフネット生命を起業した、出口社長の最新著書。生命保険という市場環境、60歳を超えるというバックボーン、そしてネット専業という参入方法など、示唆に尽きることのないケースとして学ぶ点が多くあります。

  • 生命保険という市場

出口さんが100億円を超える資金を調達するために各企業にビジネスモデルのプレゼンテーションを行った際に挙げた「5つのポイント」が、ライフネット生命が参入した市場を端的に表しています。

  1. 市場の規模が大きい。日本人の支払う生命保険料は、年間40兆円以上
  2. 商品・サービスに対する消費者の不満が大きい。保険金過払い問題が筆頭
  3. 『凧を揚げる風が吹き始めている』。変化を求める世の中の流れが起こりつつある
  4. インターネット販売による「わかりやすくて安くて便利」という明確なソリューション
  5. 参入障壁が高い。内閣総理大臣の免許書による事業

市場が規模が大きく参入障壁が高いという理想的な市場をターゲットと出来たのは、ひとえに2と3の「時流を読む」ことが出来たからに他なりません。実は10年ほど前にも出口社長は4の手法で以って新事業を試みていますが、その際は「風が吹いていない」と言って取りやめています。そこでアイデアに拘泥せず、今回のタイミングを待てたというのは、時流の大切さを真髄から理解されている方にしか出来ないことと言える気がします。

  • 60歳というバックボーン

この出口社長が60歳であるということは2つの大きな示唆をはらんでいます。1つに、長く日本生命に勤められたことにより、生命保険という市場のプロであり、誰よりも深い理解を持っていること。この事は、起業に際して金融庁ガイドラインを読み込むことで「免許は下りる」という確信を持つに至ったことや、その後の商品開発等の経営に強く活かされていると思います。
また2つには、その長い「業界内」の経験は、出口さんにとってはその眼を曇らせることとはならなかった点にあります。経験を積んでも、市場の率直な課題を見誤ることなく、顧客の「本当のニーズ」に焦点を合わせることが出来る、これは一重に万人が学ぶべき出口さんの『能力』といえる点ではないでしょうか。

  • ネット専業の参入方法

インターネット販売を用いたこと、シンプルな商品設計/ラインナップを旨としていること、業界の経験のないパートナーを選んだこと、「正直」な企業方針を貫いていること、これらは、ライフネット生命が挑んでいる市場の課題から固有に必要となったものもあれば、出口さんのスタイルとしてビジネスプランに係らず選ばれているものもあると思います。しかし成功のタネが潜んでいるとすれば、出口さんのスタイルである「正直」な点がビジネスの「強み」となり得るような市場/起業を選んでいるのであれば、それはいい結果に結びつくのだと思います。


事業を起こす際に最も重要な「時流を読む」力、出口さんは長い市場での経験と、一方それに曇らされることのない澄んだ眼を持ち続けることによってそれを読みきり、生来の正直なスタイルを利用してそこに挑まれています。