ビジョナリーカンパニー衰退の五段階 - ジェームズ・コリンズ著


ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階
ジェームズ・C・コリンズ(James C. Collins)
日経BP
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偉大な企業が衰退していく要因を解き明かした著作だが、まだ「偉大な企業」ではない者にとっては二つの意味がある。一つは、これらの要因を初めから持っていては当然偉大な企業たることは不可能だということであり、二つには偉大な企業に至る過程での小さな成功においても、小さな成功をピークに衰退してしまうことを避ける必要があるということだ。その観点から、本書に著されている五段階を見ていくことが出来る。

  • 第一段階:成功から生まれる傲慢


第一段階は心理的な要素である部分が多い。傲慢とは理性的な経営が失われることを指している。モトローラはアナログ携帯電話の大成功によってデジタル機への需要の勃興を無視した。サーキットシティが新規事業に"中途半端に"のめりこんでいる間、ベスト・バイは中核事業の新コンセプト店による進化を進めていった。
ここであるべきとされている姿勢はサム・ウォルトンのものに集約できる。すなわち、「会社の目的を明確にする姿勢と謙虚にものを学ぶ姿勢」である。このことをずっと続け、人を雇い・文化を築き・新分野に進出するときでも当初の原則を徹底した。

  • 第二段階:規律なき拡大路線


本段階が最も重要である。それまでの成功を超える成功を求められ、過大な業績目標によって規律なき進出を行ってしまう。"規律"とは、会社の価値観に合うか/情熱を持って取り組めるか・その分野でナンバーワンになれるか・会社の経営資源を強化するか、という基準がある。
偉大な企業は常に大胆な目標を掲げるが、目標を実現する手段を誤ってはならない。ユニクロの売上高一兆円目標は、あくまで現在の中核事業で成し遂げることを想定している。単純に業績を追い求めるようになるのであればそれは規律なき進出になる可能性がある。あくまで、事業ありきでなくてはならない。
事業の新規進出の是非は難しい。偉大な企業は「多くを試しうまく行ったものを残す」と言われる。恐らく基本的にはスモールスタートが望ましく、大きく勝負する際にはソフトバンクの言う「体力の1/3までの範囲内で勝負する」という基準が必要である。

  • 第三段階:リスクと問題の否認

第三段階は組織の問題を指摘している。経営陣にマイナスの事実を挙げないようになる、データや事実を根拠に議論をしなくなる、経営幹部や功績を誇り責任を逃れるようになるなど、基本的な組織の病理に関する指摘が主である。
これらはどの段階・サイズにある企業でも容易に衰退の原因となる。むしろ偉大でない企業が考えるべきは、これらの病理を生まない組織を初めにいかに設計し維持するかである。これらは経営者の倫理観だけで出来るものなのか、何らかの設計が助けてくれるものなのか、学んだ事全てを総動員して実現しなくてはならない。

  • 第四段階:一発逆転の追及

カーリー・フィオリーナルイス・ガースナーの対照が最も示唆に富んでいる。衰退の時期にある企業には一発逆転の策、派手な露出、救世主扱いの経営者ではなく、徹底した分析から強みを維持拡大し、弱みをなくし、本当に必要な買収だけを選択し、成果を積み重ねていくことを優先すべきである。
偉大な企業でなくとも、失敗を多く積み重ね衰退と呼べるフェーズに差し掛かってしまったのであれば、ターンアラウンドにおいてなすべきことはIBMと同様であり、一発逆転を狙うべきではない。

  • 第五段階:屈服と凡庸な企業への転落か消滅

第一〜四段階の結果、企業は屈服して身売りするか、倒産する。ここで最も重要なのは「どの企業も永続する価値があるわけではない…『当社が消えたとき、世界は何を失い、どういう点で悪くなるのだろうか』という問いに対して、説得力のある答えが出せないのであれば、恐らく屈服が賢明な道」という箇所である。
これは衰退した企業が身売りするか否かという場合にのみ存在する基準ではない。会社の設立、存続の全てのフェーズで企業に突きつけられ続ける問いである。戦いで重要なのは生き残ることではない。世界に特有の影響を与え、優れた業績を挙げながら、他の組織が簡単に埋めるわけにはいかない、という企業を築かねばならない。


本書の最後には、衰退の兆候は知ることが出来るものであり、これらのどこかの段階からも回復することは出来る、よって失敗とは心の問題である、という言葉で締められている。しかし第五段階で見るように、企業の存在意義に関しては初めの時点から答えのあるものになっていなければならない。第二段階で言うように、中核事業たるものは十分に成長する余地があるものでなくてはならない。これらは偉大な企業になる前から決められていなければならないものだ。


ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階
ジェームズ・C・コリンズ(James C. Collins)
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