戦略プロフェッショナル - 三枝匡著


企業経営における手法はある水準までセオリーとすることができる。特に本書で描かれているような事業のターンアラウンドであればその割合は他の側面に比べ高まる。プロテック社のケースにおいて示されている重要なセオリーとは一つに戦略の内容そのものであり、二つに組織による遂行方法である。本書の言う「実践的戦略プロフェッショナル」とは、セオリーに基づいた戦略を立案でき、遂行できる人物のことである。


-戦略内容1: 戦略事業の決定事業が赤字か黒字か、シェアが何%かという事実だけでは意思決定の材料にはならない。ポートフォリオ上での位置づけを明確にする必要がある。その事業がプロダクト・ライフサイクル上でどのステージにあり、競争ポジションが強いか/弱いかでその位置づけは決まる。社内の事業ごとにポートフォリオ上の位置づけを明確にし、どの事業に集中して投資を行うかを決定する。導入期(高い成長率/弱い競争優位)にある事業に投資を行い、それが混乱や衰退のルートにたどるシナリオを回避し、成長から成熟へのルートを目指す。成長率は外部要因だが競争優位は内部要因を含むため、競争優位を築ける根拠(製品内容、販売方法、価格etc.)を同時に見いださねばならない。また、利益率の高い事業を戦略事業としなければならない。


-戦略内容2: 戦略展開方法の決定
集中すべき事業を決定したら、その事業において競争優位を築き成長するためのネックが何か、それを解消するために何が必要かを見いだす必要がある。価格、製品内容、営業方法などがネックになりうる。


-戦略内容3: 目標決定
集中すべき事業を決定したら、その事業の目標を定める。競争環境や自社の業績から考えて、必要な時期とボリュームを設定する。事業の成功と失敗は目標によって決まる。計画が想定通りに進まないことは世の常であり、目標設定時に前提条件を明確にし、実施の際にどこがうまくいかなかったのかという点を明らかにすることが重要である。失敗した場合の逃げの手を考慮しておくこともこの一環である。


-戦略内容4: セグメンテーションと実行プランセグメンテーションとは「同様の購買性向/ニーズを持った顧客の分類」である。目標を達成するための実行プランを作成する。実行可能なプランとするためには、セグメンテーションが最も重要である。セグメンテーションは意思決定そのものであり、組織を動かすためのリーダーシップに必要なものとなる。セグメンテーションはシンプルであるべきであり、かつ切れ味の鋭いものである必要がある。


-実行内容1: 戦略立案体制事業のポートフォリオ上の位置づけなど、現実を単純化して核心に迫ることが役割である戦略は曖昧にされてはならない。一方で立案に特化した戦略企画部門は組織ラインとの軋轢を生む場合が多い。立案部門は自ら実行に関わり、ラインマネージャーは戦略立案に関わる必要がある。その上でドラスティックな意思決定が必要である。


-実行内容2: ルート3症候群の改善成長率は高くとも競争優位を築けずドンジリに向かっている事業の組織は大抵不活性な組織になっている。既に野心的な社員は辞めており、逆に素直だが低いレベルで安定していることが多い。状況の改善には2つのことが必要である。当面の戦略目標を示すことと、組織の適度な不安定化が必要である。若手の抜擢などが具体的な例である。


-実行内容3: 価値観の転覆戦略実現のための実行プランは、殆どの場合従来のやり方を否定することになる。組織は混乱し軋轢が生まれる。その際に戦略リーダーの立場は最も危険になる。この時、経営トップとの連絡を密にし、部下を掌握し、横との問題を解消する必要がある。


-実行内容4: 実行におけるしつこいフォローセグメンテーションを成功させるために最も重要なのはその実行をしつこくフォローするシステムを持つことである。報告は定期的に必ず行い、聞いたり聞かなかったりということをなくす必要がある。報告の対象にも漏れや例外を許してはならない。そして管理するシステム自体はなるべくシンプルである必要がある。セグメンテーションはそれまで実行されてこなかったセグメントに手を付けることになるため、実行部隊からは不平を受ける宿命を負っている。だからこそしつこくフォローを行い、進捗を得なければならない。


本書のケースでは当該事業のブレイクスルーに至るまで主人公の強力なリーダーシップが発揮された。その成果として事業が大きく成長し組織が活性化するが、その少し後に主人公が再度組織に問題を感じ始める。トップダウンゆえに上からの指示待ちになり、セグメントや営業の管理を確実に行うがゆえに組織の「遊び」がなくなったと感じている。
どのような組織でも永遠にパフォーマンスを続けるということはない。製品や事業も同じであり、時間と共に成長を続けるには更なる戦略と組織の実行が必要とされる。本書はターンアラウンドのフェーズに限ったものだったが、別のフェーズについても学んでいかなければならない。