132億円集めたビジネスプラン - 岩瀬大輔著


132億円集めたビジネスプラン
岩瀬 大輔
PHP研究所
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冒頭にある"アントレプレナーシップ"という言葉の定義が全体の通奏低音となり、顧客開発・自社戦略・資金調達・組織構築が語られている。

"Relentless pursuit of opportunity beyond resources currently controlled" 「現在自分のコントロール下にある経営資源に制約されることなく、新しい機会を執拗に追い求めること」

  • 顧客開発

「顧客にどのような価値を提供するのか?」という問いに答えるためには、その顧客について徹底的に知り尽くすことが必要になる。それは性年代にとどまるものではなく、ライフスタイルや何を考えているかという主観的な情報までに至る。また、従来までに語られているようなステレオタイプに留まらない顧客像を浮かび上がらせるために、下記3つのアプローチが有用である。

  1. ファクトに注目する:既存の言説をバックアップするものではなく、ファクトそのものから何が言えるかを考えることができる。厳しい市場環境の中でも売上をのばしている会社も存在する。
  2. 既知の情報を、違う切り口で分析する:用意されたグラフを鵜呑みにするのではなく、前提条件は何か・グラフの目盛りは何か・異なった見方はできないのか、ということを考える。
  3. 生のデータに当たる:皆が「何となく分かったつもりでいる」ことこそ、生のデータにあたって真実を浮かび上がらせることが出来る。

これらの手法により、通説を覆す『新しい機会』たる顧客セグメントを見つけることができれば、それこそがベンチャー企業のお客様であり、新たな価値を提供することのできる顧客層となる。それらの層が見つかれば、次の段階として、アンケートやインタビューが生の声を独自に収集するための重要な手段となる。

  • 自社戦略

ライフネット生命の事例で出色なのは、その価格設定である。定量分析から導かれる最大利益の価格ではなく、「生命保険料を半分にする」という理念をベースにした価格設定が行われている。この目標を先に定め、そのための手段を考えていくという順番はアントレプレナーシップの定義にまさしく適うものである。手段として、シンプルな商品内容やラインナップ、営業手法などがイノベーションとして生まれている。
廉価良質なサービスを実現するためには低コストなプロモーション施策が必要だが、そのために同社では「会社が出来るストーリーごと『売る』」と言われるような広報を重視したプロモーションが行われている。そのために、マスコミが好むとする「意外性」「ミスマッチ」や「時代性」を重視し、知名度のピークをサービスリリースに持っていくべくスケジューリングを行っている。

  • 資金調達

資金調達においても、「誰に頼めるか」ではなく「誰に株主になってもらうことが、事業の成長に最も寄与するか」という視点が提示される。同社の場合、調達先となる事業会社の要件として、消費者に安定感を与えるか・新しさのイメージ、消費者/ウェブマーケのノウハウ・意思決定の早さが挙げられている。
また、資金調達の際の事業計画の説明の肝も解説されている。「どの程度事業が大きく成り得るのか」というアップサイドを説得力ある論で語ることはもとより、「この事業にはどのようなリスクがあるのか」という点もロジカルに描き出し、ひとつひとつ対策を講じていることを示す必要がある。同社の場合、リスクは下記のように挙げられている;

  1. 既存の生命保険会社が破綻するケースを分析
  2. その原因は、放漫経営・過去の高利回り商品による逆ザヤ・赤字続き
  3. 先頭2つはあり得ず、最後の1つは結局「ネットで売れるのか」とう点に行き着く。ここは信じてもらう(リスクをとってもらう)ところ
  • 組織構築

ベンチャー企業は、その中で働く人材の器を超えることはない。そのため、初期のマーケティング活動はその人材訴求を意識して行われる必要がある。また、アントレプレナーシップに基づけば、「誰なら来てもらえそうか」という観点は一旦捨て、「一切の制約がないとしたらどのような人材にチームに加わってもらいたいか」という考え方をすべきである。
また、成功するベンチャー企業に必要なこととして、周囲から「応援したい」と思ってもらえるかどうかという点があると言われる。これは創業者の人格にも加え、その会社の理念やサービスが、時代の要請に沿っているかという点が最も影響する。時代が求めているものをより良く提供できることを示すことが出来れば、応援がついてくるものである。


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