『ブランド帝国LVMHを創った男 ベルナール・アルノー、語る』

世界でも有数のブランド好きである我が国に住んでいる身としては、自分に興味がなくともルイ・ヴィトンなどの商品を多く見かけます。しかしこれだけ知られている商品でも、意外とその経営的な実態は知らないものです。そんな身には、ヴィトンやディオール、モエ・ヘネシータグ・ホイヤーなどのブランドが全て同じ「LVMHグループ」である、ということに先ず驚きますが、さらにその成り立ちや経営方針、そしてその立役者であるベルナール・アルノーの生き様には、さらに驚かされます。

  • グループを「創る」

出発点は、一族の資産を投げ打って買収した「クリスチャン・ディオール」でした。この時は母体であるブサック社というコングロマリットを解体することで収益性を取り戻す、という考えの投資だったようですが、その後LVMHと出会うことで、ディオールと組み合わせ「高級ブランドグループ」を創る、というビジネスプランが出来上がります。あまり市場では知名度のない中で、ブサック社の買収に名乗りを上げる過程の話には、徹底的な調査やパートナー集めなど、いわゆる「起業」という言葉が想起されるものとは違う種類のアクションを知ることができます。

  • グループを経営する

このケースで特徴的なのは、終始一貫して、ヴィトンやディオールのような「本当のスターブランド」を中核に据えた「グループ経営」が必須である、という点が強調されていることです。これらの強靭な背景を持つブランドは、景気の変動に強く、長期的にキャッシュフローを生み出すことが出来、だからこそ新たなブランドの育成にも投資が可能になる…という経営方針が何度も詳細に述べられています。企業連合がグループ化されることの意味を本質的に理解するチャンスというのはなかなか無い気がしますが、LVMHの場合はビジネスの性質からその必要性が説かれています。
また、グループの運営は財務的なつながり以外に、「高品質・創造性、ブランド・イメージ・企業精神」という理念でもって団結をしている、とあります。確かにこのような、共通する価値観や、それがゆえにビジネスにも好ましい影響を与えるような価値観を共有しているということは、財務的な「グループ」経営により強い意味をもたらすことになるのだと思います。

  • 起業や経営への示唆

上記のような自グループの具体的な話から、より普遍的なテーマにも話は及びます。起業については、5年前の高級ブランド品業界は社会的な認知度が低く株価もずっと安かったことを指し、その時流行の分野に手を出しても強い将来性はない。注目されていない分野こそがチャンスだ…という点を指摘します。また、そうすれば、数年でゼロから巨大企業が作れることも教えてくれています。また、企業家としての矜持について、会社を成長させ、拡大させていくことの魅力や意義が素直かつ上品に語られており、ややもすればそういった価値観を軽視しがちな風潮を改めてくれる気がします。

このほかにも、フランスの国や市場としての課題をアメリカと対比しながら語っている内容や、インターネットなどの新市場、人材に対する考え方などはどれも一読の価値があるものです。何より、どこまでも謙虚で実務的な物言いが美しさすらを感じさせてくれます。